1/13 (火) パワポだけで後輩と先輩の400mラストの股関節の角速度を比較する
##なぜこんなことをするか
これまで、自分は対400m用の走りをいくつも開発してきた。
その際、注目してきた観点として、「股関節の角速度」がある。
一般に、「シザーズの速さ」とか「振り上げの速さ」とも言われる。
これについて、ずっと数値化してみたかった。
後輩に評価してほしいと3ヶ月前に400mの動画をもらった。
いま、面白い分析方法を思いついた。
パソコンで簡易的にできるかもしれない。
3ヶ月放置してしまった謝罪を込めて真面目に評価したいと思う。
##概要
後輩(52"29)と先輩(49"67)の動画、それぞれから股関節の角度変化、角速度変化を計算した。
角速度変化とはつまり、足の回転速度を意味している。
グラフで可視化して、400mのラスト100mの速さの違いを考察した。
(股関節の左右差を無視した。また、今回は「股関節角度」と「400mのラスト100mのある一瞬のみ」に着目した。400mの速さには様々な要因があることは忘れてはいけない。また、結論として断定するには少なすぎるデータ数なので、断定は避けて考察した。)
##事前準備 読み飛ばし推奨
分析に使う動画が必要である。
先輩の動画はyoutubeにアップされているのでダウンロードする。
$ youtube-dl -o "/path/%(title)s.%(ext)s" URL -f mp4 --no-playlist
次に、角速度を計算するため、動画のfpsを確認する。
$ ffprobe 動画のpath
多分 29.97 fpsが普通。あとで使うので覚えておく。
##動画を分析
いよいよ動画を分析する。
今回は、ラスト100mの走りを評価したいと思う。
400mをホームストレート中央から撮影している動画が望ましい。
後脚が伸びきったところから、引きつけて、接地するまでを追跡する。
だいたい 0.45-0.5 s くらいだ。
スクショなりffmpegなり、好きな方法で動画から静止画を抜き取る。
きっと15フレームくらいになる。
抜き取った静止画で、股関節角度を計測する。
角度は、水平からの角度をとった方が良い。
(そうしないと後半の角度がマイナスになる)
##角度の計測方法
これが面倒でこの分析は避けてきた。
openposeのディープラーニングで関節位置を出して、jsonファイルにして、ベクトルの内積から角度を求めても良いが、mac bookには負荷が高すぎる。
パワポで角度を求める方法を編み出したおかげで、今回の考察が可能になった。
パワポで直線を引く。
その直線を複製し、図形の書式設定→サイズ→回転 で角度を求められる。
動画では直線をわかりやすく黄色太線にしているがその必要はない。
直線の複製は command + D (winなら control + D で簡単にできる。)
イラストレータを持っている人は、角度が簡単に求まる。
##角速度の計算
先ほどffprobeで確認した動画のfpsを使う。
29.97 fpsだから、1フレームあたりの時間は 1/29.97 = 0.033 s となる。
例えば、1フレーム目の股関節角度が126 (deg) で、2フレーム目が 116 (deg) だとすれば、 (126 - 116) / 0.033 = 299.7 deg/s が角速度になる。
rad (弧度法) に直す必要がないのでdeg (度数法) を結果とする。
##結果
以下、人の名前を「後輩」と「先輩」とする。
後輩 : 52.29
先輩 : 49.67
(先輩の方は49.32をこの次の大会で出したが、動画が発掘できなかったため49.67の動画を分析。)
##簡単なグラフの確認 =角度変化=
グラフの見方を共有しておきたい。
股関節角度は下がったのちに上がっていく。
該当する画像と合わせるとわかりやすい。
このように角度を測っている。
そのため、後脚が前に行く過程で角度は小さくなる。
そのあとに、ももが下がってやがて接地する流れで角度は大きくなっていく。
グラフの変化はそれを表現している。
##簡単なグラフの確認 =角速度変化=
これまた面白い。
角速度 (角度がどれくらいの勢いで変化したか) は、ピークを持つ。
そのピークは、引きつけ始めてから 0.2 s のところ。
脚がちょうど前に持って行かれる瞬間。(挟み込む瞬間)
後半が負の角速度になるのは、単に角度の測り方の問題。
脚が上がる方向を正としたので、脚が振り下がると負になる。
絶対値で考えると、持ち上げる動作よりも振り下げる動作の方が角速度の絶対値が大きい。
これは、もも上げの動作は意識的に引きつけているが、振り下げはそこまで力を入れず、重力にだいぶ任せているところがあるからだろう。
##考察
後半は特に顕著だろう。
後輩の方が角度変化が大きい(速い)。
0.3s 付近のグラフの微分係数(傾き)を計算すればすぐにわかるだろう。
(角速度を求めていることになるが。)
つまり、後輩の方が振り下げが早く、1サイクルが早いのだ。
さらに驚くべき結果を示そうか。
まずはじめに驚くこと。
それは、両者ともに、最大角速度は等しいということ。
俗に、引きつけの勢いがあった方が速い、引きつけ速度が重要と言われる。
自分もそう思ってきた。
ただそれが間違っているかもしれないのだ。
最大角速度が等しいのだ。
ということは、両者の違いは何か?
グラフに局所的な傾きを表記した。 (角加速度にあたる)
ここで、もう一度驚かなくてはいけない。
それはつまり、明らかに角速度の変化に差があるということだ。
後輩については、ピークに達する前から角速度が増している。
そしてピーク後、勢いよく角速度が下がっている。
先輩については、ピークに達するまでそこまで角速度は大きくない。
ピーク後も角速度の現象具合は小さい。
つまり、先輩は瞬間的に脚を引きつけ、さらにゆっくりとそれを下ろしていることになる。
実際、ピーク直前の0.033秒で、後輩は29°、先輩は42°引きつけている。
ここで、瞬間的に脚を引きつけることの重要性がわかった。
また、先輩は脚をゆっくり下ろしている。
つまり、引き上がった状態でキープしているのだ。
ストライドが伸びている状態に当たる。
後輩はすぐに脚を下ろしているからそれがない。
##結論
・脚の引きつけは、体の真下が最大である
・引きつけ速度は、52秒台も49秒台も変わらない
・脚を瞬間的に引きつけることが速さにつながる
・脚をゆっくりと下ろすことが速さにつながる
##あとがき
いかがだろうか。
自分でも驚くべき結果が得られた。
ここから400mのラストの為に、どんな練習をすべきかがわかるはずだ。
練習方法、また、グラフから読み取れるそのほかの情報については、読者自身で考えてほしい。
もし何か面白いこと気づいたり、私のミスに気がついた人はぜひ教えて欲しい。
(この記事は角度変化、角速度変化が混合している可能性がある。変位と速度と加速度が混ざって間違った考察をしている可能性がある。申し訳ない。)